TPP論議は危険水域に=政府の農業政策

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加をめぐって大議論が巻き起こっています。政府が参加に前向きな姿勢を示す一方で、与野党の農業の行く末を心配する議員たちが大方反対の意思表示をする事態になっている。
 先頃の衆議院総選挙で民主党マニフェスト(第一次)に農産物を含み自由貿易協定の締結と記されたことを記憶しているだろうか。批判を受けてあわてて修正ということになり、公式にはマニフェストには書かれなかったのですが、民主党の中に農業の貿易自由化論者が多々いるということは紛れもない事実で、いったん隠れたということにすぎなかったことが、今や表面化してきました。
 TPPは一切の条件や留保は認めないで、農業分野を含めた関税撤廃や投資の自由化を進める経済連携協定(EPA)の太平洋地区版とされています。ことはこの交渉に我が国が参加を表明(菅直人総理)したことに発し、それも突然のことでその表明までは与党内にも議論さえないという事態が鮮明になっていたわけです。
 民主党が掲げた「米戸別所得保障」は米の価格低下をもたらす。農地の集積をダメにし、意欲ある専業農業者の育成にも寄与しない。私はそう考えてこの政策を批判的にみてきましたが、それは戸別所得保障で農家に直接保障を行うということが、EPAなどの自由貿易を推進するための下ならしだと考えてきたからにほかなりません。
 おそれていたことが現実になろうとしています。私たちは先頃の尖閣諸島関連事件でレアアースとかいう希少物質の輸入差し止めで日本産業界が震え上がったことをおもいおこさなければなりません。食糧自給率40%の国で農業分野にも自由貿易をという政策は、レアアースどころの問題ではありません。TPPで日本の小規模農業は壊滅する。それは大いにありうることで、それも大して時間はかからない。私はそうみています。今でさえアメリカやオーストラリアという圧倒的な国際競争力を持つ国から食糧を輸入しなければならないのに、TPPで我が国の食料自給率は14%にまで低下する(農水省予測)中でどうやって1億2千万人の胃袋を安定的に満たしていくというのでしょうか。
 菅民主党政権の危険な一面、それはTPPで顕在化した農業分野を含む自由貿易志向だということ、マニフェストで片鱗をのぞかせ、それを撤回したかにみせてまた持ち出す手法だということ、米戸別所得保障政策はそのい手段として使われたということ、今回はそれらのことを期しておきます。